囲碁AI新時代(王銘琬九段 著)

2017/05/18書籍

囲碁に先行しているコンピュータ将棋の本でも同様だが、コンピュータに関する本はガチガチの技術者向けの本か、逆に完全に一般人向けの本になりやすく、両者のバランスを取ることが難しい。双方に深いレベルで関われる人は少ないし、それを一般向けにわかりやすく解説できる人はなおさら希少だ。

本書「囲碁AI新時代」は囲碁のプロであり、コンピュータ囲碁の開発に関わったこともあり、対局の解説も一級品である王銘琬九段による囲碁AIの本。この1冊で囲碁AIに関する多くの部分を知ることができる良書だ。囲碁AIの入門としても良し、AlphaGOと李世乭(イ・セドル)の世紀の一戦の解説書としても良い。

目次

第1章 熱戦を振り返る
第2章 アルファ碁とディープゼンの相違点
第3章 コンピューター囲碁の歩み
第4章 私とコンピュータ囲碁
第5章 囲碁とAIの将来

感想

第1章「熱戦を振り返る」は囲碁AIの対局棋譜の解説。AlphaGOやDeepZenだけではなく、2016年末から2017年始めにかけて行われたMaster戦も解説されています。当時はMasterがAlphaGOであることは明かされておらず、60連勝するAIとは何者かドキドキしながら見ていたことを思い出します。私はまだ囲碁は入門レベルなので この章は文章を追うだけですが、解説文を読むだけでも各対局が熱戦であったことがわかります。

第2章は「アルファ碁とディープゼンの相違点」。それぞれのAIの対局を元にAIの癖や長所について述べています。AlphaGOの強さばかりが注目されているのですが、DeepZenのもつ強みを紹介しているのは良い記事だと思う。囲碁の奥深さを追求するには様々な手法があっても良く、たまたま今現在はAlphaGOの方が強いだけなのだろうし。

第3章「コンピューター囲碁の歩み」はコンピュータ囲碁がどのように考えているのかの簡単な解説、第4章「私とコンピュータ囲碁」はメイエン九段がコンピュータ囲碁開発に関わった話が書かれています。一般の肩がコンピュータ囲碁について知ったり、あるいは本格的な技術書を読む前の入門として良記事だと思います。これ以上詳しく知りたい方はコンピュータ囲碁 ―モンテカルロ法の理論と実践でMCTSについて学んだのちに、NatureのAlphaGOの論文を読むことをオススメします。

第5章は「囲碁とAIの将来」。コンピュータが人間を超えてしまった現在、どのように人間と囲碁とコンピュータが関わっていくのかという話。この章は実は本書で一番面白い部分だと思います。将棋界のコンピュータソフトへの稚拙な対応に比べて、囲碁は実に前向きに対応していると思う。この差はどこから出てくるのでしょうか。
P.191の「世界は有理数で構築されていると信じてきたのに、それが無理数の海の上に浮かぶ藻屑にしかすぎないころに気づいた、と例えるのは大げさでしょうか」という言葉も実に味わい深いと思います。

王銘琬九段は碁を題材にした読み物も書かれていて、こちらも非常に面白いです。おすすめ。

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